yorimashi jargon — 目的と、挑戦的なところ
(2026-09-13 起草。人間の「このプロジェクト自体の挑戦的なところと目的を言語化しよう」から)
一文で
まだ名前のない不便に、名前をつける。 人間とエージェントが同じ言葉を持てば、説明の十七文字が二文字になる。
何を作っているか
AI 開発の現場で「名前がないせいで毎回文で説明している現象」に語を与え、審査し、人にもエージェントにも配る、内輪の概念レジストリ。見た目は辞書。裏の主役はエージェントが引く束(llms.txt / dict.json)と、提案の受け口。
なぜ今か
- 言葉が生まれる速度が上がった。 AI と二人で作業すると、三日で内輪の言葉ができる(席・板・札)。人間同士のチームなら年単位で起きていたことが週単位で起きる。
- 説明相手にエージェントが加わった。 人間は文脈で察するが、エージェントは毎回ゼロから読む。語が無いと、規則文が長くなり、長い規則は守られない(実測: 一段・160 字の規則に対し平均 324 字)。
- 海外の言葉が訳されないまま使われている。 lost in the middle、sycophancy、slop、workslop。カタカナで持ち込むと、現象の形(真ん中・追従・ごみ・押し付け)が見えない。
- AI が来て初めて生まれた現象がある。 進化負債(依存先が進化して負債になる)、共通下限問題(差し替え可能にすると表現力が最弱に揃う)、口だけ完了、テスト骨抜き。名前が無いまま、皆が同じ話を別々の言葉でしている。
誰のためか
主な利用者はエンジニア。とくに AI エージェントと一緒に作る人。次に、そのエージェント自身。語は人間が読んで分かり、エージェントが読んで従える形でなければならない。
挑戦的なところ
1. 造語は簡単で、定着は難しい
AI に頼めば一晩で百語できる。価値は「作れること」ではなく「使われること」にある。だから登録条件を 既存語では区別できない概念差があること に絞り、命名理由(なぜ既存語では足りないか)を必須の欄にした。作る AI ではなく、名無し状態を検出する AI にする。
2. 二種類の読者に同じ語を通す
人間には直感で、エージェントには規則として効く語。「公約数化」は数学を知る人にしか刺さらず、「共通下限問題」は両方に通った。見て分かる語の組み合わせ、主語(誰がやりがちか)を語に入れる、絵が一つで伝わる比喩だけ使う —— 手筋を NAMING.md に溜めている。俳句の取り合わせ・季語・切れ字がそのまま効く、という見立て。
3. 内輪の言葉が外に漏れる(自己言及)
この辞書が作る語そのものが「内輪語漏れ」の危険を持つ。よりましの中で通じる言葉と、外の人に通じる言葉の境目を、辞書自身が管理しなければならない。status(提案・仮・決まり・廃止)と別名は、そのための仕組み。
4. 審査を人間の手に残しつつ、流量に耐える
提案はエージェントから大量に来る(今日だけで六十語)。採否を人間が決めるのは譲れない —— 「あ、それ名前あると便利だわ」と思った瞬間だけ採る。だから受け口は軽く(ファイル → 将来は Issue と label)、審査は一枚ずつ、却下理由も残す。却下の記録が次の手筋になる。
5. 辞書がグラフに育つのを邪魔しない
語は単独では終わらない。共通下限問題 → 抽象化 → 能力損失、進化負債 → 技術的負債 → 前提消失。関連語がつながると、よりまし周辺で発見された概念の地図になる。lore と最初から名付けず、長く使われた jargon が結果として lore になる順番を守る。
6. 声で使われる
この辞書はよりましの席が声で使う。同音異義、読み上げの長さ、「それ〇〇じゃない?」に乗るか。文字の辞書とは違う制約が最初から入っている。
やらないこと
- 一般語の言い換え(既存語で足りるものに別名をつけない)
- AI に自由に造語させること(提案はしてよい、採るのは人間)
- 背景設定の発明(語の由来は、実際にあった作業・会話に限る)
育ち方
- 手元で語を溜め、審査し、手筋を書き直す(いま)
- jargon.yorimashi.dev に公開。llms.txt を CLAUDE.md に一行貼れば、どのエージェントも同じ語彙を持つ
- 提案の受け口を GitHub に載せ替え(Issue → label → PR → Pages)
- よりましの席が作業中に「Jargon 候補を見つけました」と言ってくる